チャットボットとは、ユーザーの問いかけに対して自動で返答する会話プログラムのこと。コールセンターでは、慢性的な人手不足や高い離職率といった課題が深刻化していることから、業務負担の軽減や効率向上を実現するために、チャットボットの導入が加速しています。
チャットボットは、オペレーターが対応する必要のない定型的な問い合わせや簡単なトラブル対応を自動で処理し、業務の一部を効率的にカバーする役割を担います。さらに、問い合わせの一次対応のほか、予約や注文受付、顧客情報の更新手続きなど、多岐にわたる業務にも活用可能です。
このように、チャットボットはコールセンター全体の対応力を強化し、円滑なサービス提供を支える重要なツールとなっています。
さまざまなビジネスシーンで活用されているチャットボットですが、コールセンターに導入することでどのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは、3つのメリットを紹介します。
チャットボットの導入によって、顧客満足度の向上が期待できます。チャットボットは24時間365日稼働し続けられるので、顧客はいつでも都合の良いタイミングで問い合わせができ、迅速に回答を得られます。顧客は電話をかける手間やストレスを感じることなく利用できるので、顧客満足度の向上に大きく貢献するのです。
また、チャットボットに蓄積されたデータをVOC(Voice of Customer:顧客の声)として活用することで、サービスの改善・向上が期待できます。さらに、オペレーターの知識や経験に依存せず、一貫した品質でサービスを提供できるため、対応のばらつきを抑える効果もあるのです。
頻繁に寄せられる定型的な問い合わせに関しては、チャットボットが自動処理することでオペレーターの業務負担が軽減されます。同じような問い合わせに繰り返し対応するストレスから解放されることは、オペレーターの離職防止にも効果を発揮します。
また、業務負担が減ることで、オペレーターはコア業務に注力できるでしょう。例えば、顧客との会話の中でニーズを引き出し、セールスにつなげる役割を強化することも可能です。これにより、コールセンターがコストセンターからプロフィットセンターへと転換されます。
売上を生む業務に取り組むことでオペレーターのモチベーションがアップし、従業員エンゲージメントの向上にも貢献するのです。
オペレーターに代わってチャットボットが対応できる問い合わせが増えれば、人件費や対応時間を削減できます。これにより、コスト効率が改善され、企業全体の運営コストを低減させる効果が得られるのも大きなメリットです。
また、オペレーターが対応する問い合わせが絞り込まれることで、新入社員の教育コスト削減にもつながります。定型的な問い合わせはチャットボットが対応するため、オペレーターは複雑な内容の問い合わせや個別対応が必要な問い合わせに集中でき、企業はそれに応じた人材教育がしやすくなるのです。
コールセンターで利用できるチャットボットには多くの種類があり、機能や特徴もさまざまです。チャットボットを選定するにあたり、確認しておきたい5つのポイントについて解説します。
チャットボットには、AI(人工知能)搭載・非搭載の2種類があります。「AI型」のチャットボットは、自然言語処理や機械学習などの技術を活用して、顧客の問い合わせの意図を理解し、柔軟に対応できるのが強み。学習機能があるため、利用されるたびに応答精度が向上します。
一方、AIを搭載していないチャットボットは、「ルールベース(シナリオ)型」と呼ばれます。これは、あらかじめ設定されたルールやシナリオにもとづいて対応するものです。
一般的に、定型的な問い合わせが多い場合には、ルールベース(シナリオ)型のチャットボットが適しており、複雑で多様な問い合わせが多い場合や、ユーザーの意図を理解する必要があるケースでは、AI型がより適しているといえるでしょう。
AI型はルールベース(シナリオ)型のチャットボットと比べて導入コストが高くなりがちですが、近年はAI技術の進歩により、コストが下がりつつあります。そのため、AI搭載と非搭載については、コスト面だけで考えるのではなく、コールセンターの特性や運用の手間など、多角的な視点で検討することが重要です。
コールセンターでは、チャットボットでは対応しきれない複雑な質問については、オペレーターへ円滑に引き継ぐ必要があります。そのため、チャットボットからオペレーターへの切り替えがスムーズに行えるかどうかも、確認しておきたい大事なポイントです。
切り替えができなかったり、相手を待たせてしまったりするようでは、かえって顧客体験を損なうことにもなりかねません。チャットボットによる自動応答から有人への切り替え機能があるか、チャットボットでの対応履歴をオペレーターに簡単に連携できるかといった点を確認するといいでしょう。
また、顧客を適切なオペレーターにルーティングするためのAI機能を備えているツールもあります。ツールによって、機能やAIの精度は異なりますので、比較検討することが大切です。
導入コストや運用コストは、チャットボットを選定する上で重要な要素といえます。費用対効果が十分に得られるか、中長期的な運用コストも見据えて検討することが大切です。
チャットボットには、大きく分けて「クラウド型」と「オンプレミス型」があります。クラウド型は導入コストを抑えられる半面、運用コストが継続的にかかるのが一般的。一方、オンプレミス型は導入コストが高くなりやすいものの、運用コストは比較的抑えられます。
ただし、オンプレミス型の場合は自社内にサーバーを設置するため、保守・運用についても基本的に自社で行う必要があります。こうした保守・運用にかかるコストも踏まえて、いずれの方式が適しているか慎重に検討することが大切です。
なお、クラウド型は導入までの期間が短いことや、スケーラビリティの高さが魅力。一方、オンプレミス型はカスタマイズ性に優れ、自社で柔軟にセキュリティ対策を講じられるのが特徴です。
例えば、季節によって問い合わせが急増する小売業やECサイトはクラウド型、金融機関や保険会社などの高度なセキュリティ性が求められる業界ではオンプレミス型など、コストを比較した上で、自社のビジネスモデルや顧客特性に合ったほうを選ぶといいでしょう。
コールセンターにチャットボットを導入しても、顧客が使いたいチャネルに対応していなければ、ほとんど活用されないおそれがあります。そのため、チャットボットがどのチャネルに対応しているかを確認することが重要です。
例えば、Webサイトのほか、LINEや各種SNS、ビジネスチャットなど、顧客が日常的に利用しているチャネルを把握し、自社の問い合わせチャネルと一致しているかを確認する必要があります。
チャットボット導入後のサポート体制に関しても、詳細を確認することをおすすめします。サポート体制の充実度によって、チャットボットを円滑に運用できるかが左右される場合もあるからです。
例えば、ツールの設定変更や不具合発生時の対応など、ベンダーからの迅速かつ的確な支援を受けられる体制が整っているか、事前に確認する必要があります。電話・チャット・メールといった具体的なサポート手段や、受け付け可能な曜日と時間帯についても確認することが大切です。
特に、自社の営業時間や顧客からの問い合わせが集中する曜日・時間帯にサポートが受けられるかを確認しておけば、いざというときにも安心です。
チャットボットの導入手順や費用などについての詳しい解説は、下記のコラムをご覧ください。
コールセンターにチャットボットを導入するにあたって、事前に検討しておきたいポイントがあります。具体的には、下記の4つが挙げられます。
チャットボットを導入し、顧客が求める回答を適切に表示するためには、会話の流れをあらかじめ構築する事前のシナリオ設計が不可欠です。
想定される問い合わせ内容と回答の組み合わせは、コールセンターごとに異なります。既存のFAQや過去の問い合わせ内容を活用しつつ、想定される問い合わせをできるだけカバーできるように設計しなくてはなりません。
特に、ルールベース(シナリオ)型は、あらかじめ決まったルールにもとづいて応答するタイプなので、シナリオ設計の精度が重要です。また、顧客にストレスを与えないようにするためには、会話が自然に流れるように設計することも意識する必要があります。
なお、AI型は事前に決められたシナリオに縛られず、顧客の入力内容を学習し、会話の中で新たなパターンに対応できるよう改善していくもの。初期設計においては、FAQや過去の問い合わせ内容をもとに構築される学習データが必要になります。
チャットボットは導入して完了というものではなく、継続的にシステムのアップデートやメンテナンスに取り組む必要があります。中長期的な視点に立って運用体制を構築することが重要です。
例えば、実際に運用を開始したものの、有人対応が一向に減らないといったことも起こりうるでしょう。このようなケースでは、シナリオが顧客の疑問点や不明点の解消につながっていないことが考えられます。
質問の分岐や表示される回答の内容、選択肢の数などを、随時チューニングして最適化していくことが求められます。こうした検証・改善のプロセスも含めて、継続的な運用が可能な体制を整備する必要があるのです。
そもそも、何を解決するためにチャットボットを導入するのかを明確にすることが重要です。例えば、「問い合わせ件数削減」「顧客対応の効率化」「コスト削減」「対応品質の平準化」など、チャットボットの導入効果はさまざまです。
目的が不明確なままチャットボットを導入すると、求める機能が定まらず、結果として自社に合わないツールを選んでしまう可能性があります。
また、どのような効果が得られれば成功といえるのかも曖昧になりやすく、効果の検証や改善も難しくなります。導入目的を明確化するためには、コールセンターが抱えている課題を洗い出すことが不可欠です。課題と目的を明確化することで、自社に最適なツールが選べるようになるでしょう。
コールセンターの課題を解決するためのツールとして、チャットボットが最適解とは限りません。ユーザーが抱える課題によっては、チャットボットよりもFAQシステムのほうが適している可能性があるからです。
FAQは、疑問点が明確なユーザーにとって、目的の回答に到達しやすいという点が特徴。また、図表やイラスト・画像などを挿入できるため、チャットボットよりも多くの情報を提供できます。こうした特性から、明確な質問に対して効率良く回答する必要がある場合には、FAQの活用が適しています。
コールセンターにFAQシステムを導入することで、「よくある質問および回答のページが迅速に作成・更新できる」「FAQの利用状況を分析することで、ユーザーがどのような情報を求めているのか把握できる」「分析にもとづいて、FAQの内容を修正したり新たな項目を追加したりするなど、適切な改善策が打てる」といったメリットが享受できるのです。
一方、チャットボットはユーザーとやりとりを重ねながら課題を解決していくツールのため、問い合わせ内容についてユーザー自身が詳しくない場合も課題の解決へと導ける可能性がある点が強みです。
このように、チャットボットとFAQシステム、それぞれの強みやメリットを理解した上でツールを選択する必要があるでしょう。
なお、導入の簡便さや費用の安さでは、FAQシステムのほうに優位性があります。また、チャットボットのシナリオを作成する際にはFAQが必要になるので、現在どちらも導入していない場合、まずはFAQシステムを検討してもいいかもしれません。
■チャットボットとFAQシステムの比較
▼『検索型FAQシステム「Helpfeel」』について詳しくはこちらをご覧ください。
コールセンターでチャットボットの導入を成功させるためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。特に導入後の運用で失敗しやすい部分を理解し、事前に対策を立てておくことが重要です。主なポイントは下記の2点です。
チャットボットの導入後は、継続的な改善が欠かせません。PDCAサイクルを回しながら、効果の検証と改善を無理なく積み重ねられる体制を整備することが大切です。
効果的な検証と改善を行うには、あらかじめKPIを設定しておく必要があります。問い合わせ件数、回答率、解決率、Webサイトへの遷移数など、具体的な指標を定めて効果測定を実施しましょう。これらの指標が明確であれば、次に講じるべき対策や改善の方向性が見いだしやすくなります。
チャットボットには、さまざまな導入効果が期待されますが、ユーザー体験の向上が最終的なゴールとなる点は共通しています。
顧客にとって使いやすく、快適に利用できるチャットボットでなければ、企業・顧客の双方にとって、導入メリットを実感しにくくなってしまうでしょう。顧客が求める回答が得られなければ、かえって不満やストレスを抱える原因にもなりかねません。
なお、ユーザー体験を重視した運用を目指すことで、企業と顧客の関係性強化につながります。チャットボットのUIやUXを企業視点で決めるのではなく、常にユーザー目線での使いやすさや利便性を最優先にすることが大切です。
チャットボットは、コールセンターの効率化や顧客満足度の向上に大きく貢献するツールです。24時間365日の対応が可能になることや、オペレーターの負担軽減につながること、コスト削減が実現できることなど、企業にとって多くのメリットをもたらします。顧客体験が改善すれば、顧客ロイヤリティの向上も期待できます。
なお、チャットボットの選定は、AI搭載の有無や運用コスト、サポート体制などを総合的に勘案した上で、自社にとって最適なツールであることが重要。また、チャットボットの導入時には、FAQシステムと比較することで、より最適なソリューションを選択可能です。
今回紹介したポイントや注意点を参考に、チャットボット運用におけるPDCAサイクルを確立し、ユーザー体験を重視した運用を目指しましょう。顧客体験の向上に寄与する運用が実現できれば、チャットボットやFAQシステムといった、ITシステムの導入効果を最大限に引き出せるはずです。
現在、どちらのシステムも導入していない場合には、準備と運用の負荷がより小さいFAQシステムがおすすめです。将来的にチャットボットを導入する際にもFAQが基盤となるため、まずはFAQシステムの活用を検討してみるといいでしょう。