各地の自治体にとって前例のない事態となった新型コロナウイルス対策では、住民の大半が対象となるワクチン接種関連の情報提供にあたり、アナログ・デジタル双方のさまざまな手法が試みられました。
このうち、政令市で全国3位となる230万人超の人口を抱える愛知県名古屋市は、電話窓口に殺到した問い合わせを分散させる目的でHelpfeelを導入し、「ワクチンに関するFAQサイト」を2021年8月に開設。市のWebサイトや、接種券の郵送時に記載したQRコードからアクセスできるようにしたところ、コールセンターの人員を300人近く増やした効果に匹敵する、1日最大7,000件の自己解決を達成しました。
Helpfeelを用いたFAQを開設した経緯や、得られた効果について、同市の伊藤 佳洋様(健康福祉局 新型コロナウイルス感染症対策部 新型コロナウイルス感染症対策室 主査)、林 史華様(同室 主事)に伺いました。
―― お二方は、名古屋市の新型コロナワクチン接種に関する広報・問い合わせ対応業務の一環として、Helpfeelの運用もご担当だったと伺っています。そこでまず、接種が始まった当時の状況や課題についてお聞かせください。
林様 名古屋市は2021年4月から、医療従事者等に続くワクチンの優先接種を、まず高齢者を対象に始めました。このうち個別接種の予約は医療機関が直接受け付けた一方、集団接種の予約は市のコールセンターとWebサイトが窓口となりました。
65歳以上の2回接種率が同年7月時点で当初目標を超えるなど、接種自体は順調に進んでいましたが、予約受付をはじめとする窓口対応では、体制が不十分な面もありました。
そのため、優先接種に続く接種対象者の拡大にあたっては、総数が一気に倍近くなる点や、新たな対象者はより若い年代であること、また、接種予約以外の問い合わせも増える見通しなどを踏まえ、特に電話以外による対応を強化したいと考えていました。
―― 電話対応の強化だけでは、限界があったのでしょうか。
伊藤様 はい。接種予約の受け付けを始めて以来、コールセンターはつながりにくい状況が続き、夜間・早朝というオペレーターが対応できない時間帯もありました。
回線数を徐々に増やすとともに、時間外の入電は自動応答とSMSで市のサイトに誘導し自己解決を促すなどしたものの、特に優先接種の開始当初はコールセンターの125回線に1日8万件が集中し、受電が全く追いつかない状況となりました。
結果「何度かけてもつながらない」と対応を求める方々の行列が区役所などにでき、急きょ本庁から職員を派遣してスマートフォンからの予約をサポートした時期もありました。
コールセンターはその後、最大400回線まで増強しました。それでもなお、オペレーターの対応が始まる午前9時頃や、昼休み時間帯の混雑は完全な解消に至らず、極力電話する前に知りたいことが分かるよう、新たな情報提供媒体を増やすこととなりました。
―― ワクチン関連の情報を提供する、電話以外の方法としてFAQに着目したきっかけは何ですか。
林様 さまざまな方法を模索していた中、ワクチン関連のコールセンター業務の委託先である事業者に相談を持ちかけたところ、「24時間・365日対応のオンライン窓口」になりうるFAQツールとしてHelpfeelの導入提案を受けたのがきっかけです。
委託先のグループとしてコールセンター運営に加わっていた事業者が導入支援実績を持つことも踏まえて検討した結果、電話や対面以外のチャネルの中でもHelpfeelは独自の特長を備えていることが分かり、操作性にも優れていたことから、最終的な導入が決まりました。
―― Helpfeelの特長として、具体的にどのような点を評価されましたか。
伊藤様 例えば、ワクチン接種券の郵送時に広報チラシを同封する方法との比較では、印刷して届くまでのタイムラグがなく常に最新情報を反映できる点で、オンラインのHelpfeelが有利でした。
もちろん、市のサイトでは常に最新情報を発信していますが、1つの文面の中にはレアケースも漏れなく盛り込むのが通例であるため、「丁寧に書けば書くほど一人一人の読み手には分かりづらくなる」ジレンマがあります。これに対しHelpfeelでは「ユーザーが知りたい内容を検索し、シンプルに回答できる」のがメリットでした。
ツールの操作性では、「紛失」「なくした」といった入力ワードに対する回答候補として「接種券の再発行」のトピックを提示できる「意図予測検索」の機能を高く評価しました。名古屋市の広報活動では対話形式のチャットボットも利用しているのですが、ユーザーの意図をくみ、課題解決にすぐ役立つ会話を成立させるのは容易ではありません。それだけに、日常生活で想起する言葉と、対応する専門用語のギャップを確実に埋められるHelpfeelの貢献に期待しました。
林様 Helpfeelの検索ボックスの下には「よく見られている言葉」がいくつか表示され、ユーザー自身が知りたいポイントに気付くヒントが得られる点も優れていると感じました。
―― Helpfeelで構築した「ワクチンに関するFAQサイト」を2021年8月に公開後、どのような効果がありましたか。
伊藤様 目に留まりやすい接種券の同封チラシにURLをQRコードで掲載するなど、チャネルを横断したPRを行ったこともあり、接種予約の方法や接種前後の注意点など約190件の記事を用意したFAQサイトには、1日最大7,000件のアクセスがありました。
電話に代わる窓口となり、高い割合で自己解決につながることから、私たちはFAQへのアクセスを、同数の電話を抑制したものとして評価しています。コールセンターの応答実績も踏まえて計算すると、1日7,000件の電話抑制は、オペレーター300人近くの増員に等しい効果がありました。結果、最大400回線だったコールセンターの混雑を実際に大幅緩和し、ピーク時を含めて85%以上の応答率を確保することに貢献したとみています。
林様 コールセンターの対応時間外も、FAQには午前2~3時といった深夜を含めて常にアクセスがありました。24時間・365日体制の問い合わせ窓口として、狙い通り機能したと思います。
今回、FAQの運用実務は実績と知見を持つ事業者にお任せし、月次の報告や、随時いただくメールで効果と課題を確認してきました。ユーザーの検索ワード入力に対する回答候補が1つも提示されなかった例(ノーヒット)を集中的に改善し、実際にある質問・回答をほぼ網羅できた結果、公開分と同内容のFAQをコールセンターの内部マニュアルとしても利用し、統一的な回答が実現できたことも評価しています。
―― 今回のご経験を通して感じられたFAQのメリットや、今後も行政の情報提供に貢献できそうなポイントがあれば、最後にお聞かせください。
林様 行政からの情報は、誰にとっても利用しやすい方法で周知することが求められます。この点でHelpfeelのようなFAQは、スマートフォンからネット検索できる人であれば年齢を問わずに誰でも使いこなせる印象で、知りたい情報を素早く探せるツールとして幅広く活用できると思います。
自身の都合のいいタイミングでいつでも利用でき、スクリーンショットで得られた情報を手元に残せることなども考えると、「電話窓口よりFAQのほうが便利」と感じる層は、今後いっそう増えていくのではないでしょうか。
名古屋市役所外観
実績に即して言うと、私たちのFAQでは海外渡航にあたって必要となる接種証明書(ワクチンパスポート)関連の検索割合が多く、直近の接種に関する問い合わせが圧倒的だったコールセンターとは、やや異なる傾向がみられました。重要な情報をいつでも得られるという点で、特にFAQが適しているのかもしれません。
伊藤様 HelpfeelのFAQでは、ユーザーの質問から予測した端的な回答が可能です。「特定の制度が適用されるか」など、複雑な条件によって結果が変わる場合は別の方法が良いかもしれませんが、1つの短い回答でまとまるトピックの自己解決を促すには、操作性に優れたFAQツールの活用が有効な手段になりうると思います。
※新型コロナウイルス感染症拡大の収束を受け、2024年3月末に運用を終了しています。