箱根、江の島など著名な観光地と東京都心を結ぶ「特急ロマンスカー」で知られる小田急電鉄株式会社は2021年から、旅行事業の抜本的なDXに着手。個人向け国内・海外旅行を「小田急トラベル」の実店舗で幅広く取り扱う体制から、小田急沿線などに特化した旅行商品の自社企画・オンライン販売に完全移行しました。
この大変革に伴い、顧客接点も「対面」「電話」から「Webサイト」「アプリ」にシフト。デジタルチケットの予約購入や提示に使うスマートフォン上から疑問点を素早く解決できるよう、新規導入したHelpfeelを用いてFAQを充実させた結果、新体制下での電話問い合わせを大幅に抑制できているといいます。
Helpfeelを選んだ決め手や、現在の活用状況、導入後の効果などについて、同社の中村 英之様(観光事業開発部 プロジェクトマネジャー)に伺いました。
──はじめに、中村さんのご担当業務と、Helpfeelとの関わりについてご紹介ください。
私はもともと株式会社小田急トラベルの所属で、新宿・町田などの実店舗で店長を務めていました。現在は、親会社である小田急電鉄に出向し、沿線である箱根・小田原や、近隣の伊豆などに特化した商品をオンライン販売する新体制での事業推進と、そこでの顧客対応を担当しています。
小田急トラベルのWebサイトは2023年6月にリニューアルされ、交通・宿泊・現地での観光を自由に組み合わせて購入できる「ダイナミックパッケージ」などを展開しています。ここでの予約や購入に関するFAQは、サイト刷新を見越して導入したHelpfeelで提供しており、私はその運用も担当しています。
――事業そのものが大きく変わるタイミングでの導入だったとのことですが、変化の背景や、そこで課題となっていたポイントについてお聞かせください。
小田急グループは2021年から、沿線観光地への新規需要開拓や、地域の特色を生かした観光体験の創出といった「地域価値創造型企業」に向けた取り組みを推進しています。
その一環と位置づけられたのが、アフターコロナを見据えた旅行事業の強化でした。具体的には、個人向けのさまざまな国内・海外旅行を扱っていた20近い実店舗を全廃するとともに、小田急沿線やその周辺への旅行の「ネット直販」に特化することが決まりました。
これにより、“ロマンスカーで行く箱根の旅”といった主力商品は引き継ぎながらも、紙のチケットのお渡しや対面接客がなくなるなど、ご提供の方法は一変することとなりました。
併せて予約システムや担当者の人員配置なども、ネット直販に最適な形に見直すこととなり、問い合わせ対応については、「Web上での情報提供を充実させ、電話やメールでの応対は極力減らす」方向で検討を進めてきました。
実店舗と電話対応をメーンにしていた頃から、小田急トラベルのWebサイトにはFAQのページがありましたが、実際にはほとんど利用されていませんでした。しかし実店舗をなくし、電話窓口の案内も縮小していく新たな体制では、FAQの果たす役割が格段に大きくなります。そこで、お客さまが必要とする情報を素早く得られるようなFAQを、どう構築していくかが課題となりました。
──新たなFAQの構築方法としてHelpfeelを選ばれた理由についても伺えますか。
一問一答が順に並ぶだけだった従来のFAQを、検索ワード入力で関連する回答が自動表示される方式に変えることとし、それが可能な複数製品を比較した中からHelpfeelを選びました。
これは「特に多い質問を目立つ場所に表示できる」などの諸機能を持つHelpfeelが、お客さまにとって最も使いやすそうだと判断したためです。また、私たちの同業である旅客輸送・旅行業界の大手企業にも導入実績があり、FAQの使用感を実際に確かめられたことも大きかったと思います。
──Helpfeelを通じ、特にどのような情報提供を充実させたいとお考えでしたか。
既に大多数の方がスマートフォンを保有していることも踏まえ、今回私たちは「スマホからご自身で予約操作をしていただくWebへと販路をシフトさせました。
ただ一方、当社の新しい予約システムには、慣れていないとやや戸惑いそうな仕組みも存在します。そこで、初回からスムーズに操作いただくためにFAQを活用したいと考えました。特に念頭にあったのが、複数人で予約するチケットの取り扱いでした。
小田急トラベルの商品に含まれるロマンスカーなどの乗車券類はWeb販売限定となった上、1人1台のスマホからアプリなどで取得・提示いただくデジタルチケットを採用しています。同様に、箱根山内の8つの乗り物が乗り放題の「箱根フリーパス」にもデジタルチケットがあり、こちらも1人1台のスマホが必須となります。
つまりこれらの商品では、誰か1人が全員分のデジタルチケット取得を代行したり、まとめて提示したりできず、グループの代表者・同行者がそれぞれ所定の手順を踏む必要があります。そのあたりをオンラインでうまくご説明できればと検討を進めました。
――FAQの項目立てや、回答の作成などはどのように進められましたか。
まず、社内で新たに想定問答を作りました。具体的には、対面・電話での顧客応対経験が豊富な社員数人に「ありそうな問い合わせ内容」を列挙してもらい、共通して出てきた内容は1つの問いに集約した上で、対応する回答を作成していきました。
その中でも特に多そうな質問、例えば「ロマンスカーの時間を当日変更できますか?」などは、すぐクリックできる位置に上位表示し、ワードを入力しなくても回答が得られるようにしました。
さらに「ロマンスカー」「変更」「キャンセル」といった頻出のワードも上位に配置し、クリックすると関連する質問一覧が表示され、その中から回答を探せるようにもしました。
――現在のHelpfeelの活用状況をお聞かせください。
Helpfeelは3カ月のサイトリニューアル準備期間の運用を経て、予約サイトがリニューアルオープンした2023年6月から本格稼働しています。FAQのコンテンツ数は現在116項目を作成済みで、さらに追加を予定しています。
懸案だった複数人予約のデジタルチケットについては、「デジタルチケットの取得ができない」といった質問への回答として「代表者と同行者で異なる操作が必要」という大まかな内容を、まず説明するようにしました。
さらにそこから先の詳しい説明については、サイト内の別コンテンツへのリンクを置いています。具体的には「各自のスマホでデジタルチケットを取得・提示できるよう、代表者が各同行者にSNSなどで専用URLを伝える方法」などを解説するPDFに誘導しています。
――電話問い合わせの抑制については、効果がみられましたか。
Helpfeelの導入後は電話が約96%減少しました。サイト上に電話番号の掲載をなくしたことや旅行需要の変動といった要因もあるため単純比較はできませんが、同月のHelpfeelのセッション数は3,600件以上に達しており、電話問い合わせの大幅な抑制に貢献しているとみています。
こうした成果も踏まえ、問い合わせ対応用の電話回線は従来の半分の2回線に減らしたほか、電話に備えて交代で常駐する担当者も、従来の4人から私以外の3人に縮小させることができました。
――運用中のHelpfeelと、伴走支援への印象はいかがですか。
ユーザーにとっての利便性はもとより、「回答内容の修正・追加が簡単」といった運用側にとってのメンテナンス性も優れており、従来のFAQに比べるととても使いやすくなりました。
サイト来訪者のFAQ利用動向が、きちんと数字で出てくるのがよいですね。対面と電話での接客が長かった私自身の想像を遙かに超えて、FAQが多くの方に役立っていることを、日々の実績値から実感しているところです。
当社の場合、問い合わせの傾向・内容は当初からある程度はっきりしていたので、導入前後にわたってHelpfeelから伴走支援いただくにあたっては、特にそうした内容をすぐ確認できる動線の改善をお願いしています。
具体的には「運休」「キャンセル」「変更」といった、頻出の検索ワードから回答にたどりつくためのタグづけ・表示順位の調整などをしていただき、使い勝手が向上していると思います。
――最後に、今後のHelpfeelの活用について展望をお聞かせください。
スマホ予約教室のサイトと小田急電鉄旧本社ビル
伴走支援いただく中でHelpfeel上のユーザー行動分析を聞いた限りでは、現在当社のFAQをしっかり読み込まれている方はかなり多いらしく、それで解決しているためか、実際に電話問い合わせも減っています。
ただ個人的に、対面などで直接応対していた頃との比較で言うと、「確かに疑問が解決したかどうかの感触が、もう少しはっきりつかめれば」とも感じるので、今後はそうした手がかりが得られる追加機能などにも期待しています。
私自身の取り組みとしては、近いうちにHelpfeelへのFAQ登録作業を分担していくつもりです。自前でのメンテナンスを増やすことでFAQの内容をさらに充実させ、現状では他のコンテンツに委ねている説明内容も、FAQ上で一通り分かるようにしていきたいですね。
さらに「Webサイトの閲覧はできてもチケット予約までは難しい」といったシニア層へのサポートにも力を入れたいと考えています。既に少人数の予約制ではあるものの、現物のスマホをお持ちいただいて対面でレクチャーする「小田急トラベル新予約システム スマホ予約教室」を小田急旅行センター新宿西口で毎日開いており、今後はFAQからも効果的なご案内ができればと思います。