校内での授業改善推進の“壁”を越えるには?――3人の実践者と考える、校内普及のリアルとヒント(2025年4月2日)
「自分自身の授業改善はできても、それを他の人に広げて行くのが難しい」「お互いに多忙な先生方が協力しあって学びを変えていく体制が作れない」そんなお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか?
今回は、校内でのICT利活用推進を進めてきた3名のロイロ認定イノベーターの先生方をお迎えして、校内での体制づくり・仲間づくりのポイントについてお話しいただきました。(2025年4月2日公開)
動画
参考リンク 【全国の先生の事例をオンラインで!】ロイロTV
登壇された先生方
発表者
郡山ザベリオ学園小学校の実践(青山先生)
郡山ザベリオ学園小学校の課題
青山先生は、ザベリオ学園小学校には以下の様な課題があると考えておられました。
学校として目指す方針や目標はあったものの、教員間で目指す方向性がそれぞれ異なっていた。
教員間で目指す方向性が異なっているため、取り組みが校内で広がりにくい。
先生方の間でICTの利活用や授業改善に関して興味やこれまでの経験の差が大きく、一貫した対応がとりにくい。
郡山ザベリオ学園小学校で実践された「5つの基本」
全員に求めることと、一部に求めることの線引き
全ての研修を全員参加にするのではなく、希望者向けの研修を設けることで、研修の参加への心理的ハードルを下げることを試みられたそうです。
“まずやってみせる”存在がいること
青山先生自身や同僚の西山先生が、先陣を切ってさまざまなことを実践し、他の先生が動きやすい空気づくりを意識されたそうです。
協力者を少しずつ増やす
一気に校内を巻き込むのではなく、最初は少数でも、協力してくれる先生が一人増えるごとに連鎖的に仲間が増えていくという“ネズミ算式”の広がりを意識して、少しずつ協力者を増やしていかれたそうです。
“有無を言わせない”実績づくり
ロイロ認定校やJEATの優良校など、東北地域の他の私立小学校がとっていない実績を得ることで、校外からの信頼やメディア露出も含めて「やっていて正解だった」と思える安心感を生み出すとに努められました。
“いいこと・嬉しいこと”を積極的に共有
新しいことに挑戦するときに起こる、失敗への不安よりも、やることのメリットを強調して伝えることで、前向きな動機づけにつなげられました。
この5つの基本を通じて、校内でのICT利活用の推進を広げていかれました。
郡山ザベリオ学園小学校の「5つの基本」の先へ
5つの基本のその先に進んでいくために、さらに以下の様な取り組みもされているようです。
「東北初」の肩書を活かした実績づくり
ロイロ認定校やLEGの立ち上げなど、「東北の小学校で初」という取り組みを積極的に推進していくことで先生方のモチベーションを高めていきました。
青山先生自身も、東北で唯一の小学校イノベーターとして活動し、校外からの信頼を得ることを意識されました。
実力アップの場を広げる
外部講師を招いた研修や、校内向け・希望制の研修を並行して実施していき、実力アップの場を広げていかれました。
特に力を入れているのが“県外研修に他の先生を巻き込む”ことで、校内の先生方と一緒に県外の研修に参加されることで、その先生のモチベーションが上がり、校内にも還元していくことができました。
その結果、現在では7名ほどの先生が外部でも登壇などの実績をつまれています。そのことが、新たな知見を持ち帰り、さらなる学び“循環”を産んでいます。
普段の仕事をきちんとやることで信頼を得る
校内を巻き込んでいくためには、ほかの先生方の信頼を得ることがとても大切です。
そのために青山先生は、雑用を含めた日常業務をしっかりこなすことで、信頼を得るよう努めていかれました。
このように、ICTに限らず、「普段の仕事+α」ができるかが、周囲を動かす上で非常に大切だとお話しされていました。
未来を生きる子供達のために
変化の速い時代に、子どもたちはついていけている。だからこそ、教員も時代に遅れない・つくる側として成長していく必要があります。
子どもたちに還元するために、教員同士で学び合い、子どもからも学ぶ姿勢を大切にしていきたいと語られていました。
大手前高松高等学校の実践(合田先生)
大手前高松高等学校で実施した研修
大手前高松高等学校でこれまでに実施してこられたさまざまな研修についてお話しいただきました。
AIM研修(動画型研究授業)
コロナ禍で研究授業ができなくなったことを逆手に取り、授業を動画で撮影し、YouTube限定公開→ロイロで共有→オンラインで研究協議という流れを構築されました。この研修は全員参加が必須となっています。
この取り組みにより、授業技術だけでなく、先生方が動画編集や配信のスキルを習得する副次的な効果もみられました。
外部講師もまじえて、多様なテーマの研修
そのほかにも、コーチング研修・ ロイロ認定ティーチャー研修・生成AI活用研修・ワークプレイスアナリティクス(WPA)研修など、さまざまな研修を実施されました。
この際にロイロ認定校の特権なども活用し、外部の先生もお呼びして、多様な研修を実施されました。
研修設計の工夫
多様なテーマの研修を設定していく中で、「これは全員でやろう」「これは希望者でOK」と、目的や内容によって研修を住み分けながら設計していきました。
研修スタイルも、一斉型と個別・リアル研修を柔軟に組み合わせるなど、多様な学び方を意識していかれています。このことにより、先生方が自分のニーズに合わせて研修を組み立てていくことができるようになりました。
なぜこんな研修設計に?
「強制」「一斉」は反発を産む
合田先生は、かつて学校全体を一気に変えようとするアプローチを多く取っておられたそうです。しかし、そうした取り組みには必ず一部の先生方から強い反発を受けたそうです。
「勝手に⚪︎⚪︎」シリーズで先生方の「やりたい」を引き出す
そこで発想を転換し、強制的な改革ではなく、“やりたい人が自然と集まる場”をつくることを目指されました。
そこから、「勝手に公開授業」「勝手に勉強会」「勝手に総合探究改革会議」など、“勝手に○○”シリーズとして自主性を尊重した集まりを仕掛けたところ、自然と熱意ある教員が集まり、アイデアが連鎖していったそうです。
「やらせるより、“やりたい”を引き出す場づくり」こそが、長く続く校内改革の鍵だと実感されたそうです。
学校をまきこむ設計のポイント
目的によって「強制」と「希望」を使い分ける
生徒の安全・健康に関わる研修(例:エピペン、ADHD対応など)は全員必須
教員のスキルアップ系研修(例:生成AI、WPAなど)は基本的に希望制
といった形で、「強制」と「希望」を使い分けて研修を実施することが大切だとお話しされていました。
大切な内容の研修であっても、強制してしまうと、参加を望まない先生が場の空気を悪くしてしまうことがあり、それによりモチベーションが下がってしまうことを防ぐことが大切だとお話しいただけました。
ポジティブな空気づくりを何よりも大切に
研修の呼びかけでも「来ないと損しますよ」ではなく、「忙しい中来てくれてありがとう」のウェルカムな雰囲気を意識されているそうです。
これによって、前向きで明るい空気で研修に望むことができるとお話しいただけました。
“主体的な学び”を本気で目指す
「研修に参加させる」という言葉の時点で、すでに主体性は損なわれているのではないかと合田先生はお話しされていました。
正解を押しつけず、「この道もあるし、あの道もある」とさまざまな可能性を指し示し、 教員にも自分で選び、学びたいと思える環境を構築することが大切だとお話いただけました。
信頼のベースは“自分がちゃんと働いていること”
ICTや授業改善に関することだけでなく、校務分掌や事務的な業務も率先して担当し、「あれもこれも合田がやってる」と思ってもらえるようにしていることで、研修の声かけにも信頼が生まれるとお話しされました。
日頃の信頼関係を築くことが、周囲を巻き込む上でもとても大切であるようです。
日本体育大学柏高等学校の実践(熊井先生)
ICTの導入のはじまりと、学校の「武器」への変化
日本体育大学柏高等学校では、広報の“武器”がなかったことを背景に、13年前にiPadを導入されたそうです。
しかし当初は「筋トレ道具」と揶揄されるなど、活用には至っていませんでした。本格的に活用が始まったのは、導入から3年後、ロイロノートが導入されてからだったそうです。
まずは全先生の授業を公開する公開授業を実施することで「ICTを活用した授業」の研究をスタートさせたそうです。
保護者全員を集めた“大保護者会”などを通じて、教育活動を“包み隠さず見せる”姿勢を貫くことから、ICTを活用した教育を学校の武器へと変えていく改革がスタートしました。
教育を変える、さまざまな試行錯誤
ロイロノート・スクール導入後にもさまざまな試行錯誤がおこなわれました。
「型がないと動けない」という先生方の現状を受けて、まずは年間10回のアクティブラーニング研修を実施しました。
しかしその後、アクティブラーニングの“本質”を理解しないまま形だけ真似しても、意味がないと感じるようになりました。
そこで次に取り組んだのが、「生徒がどうすれば授業を楽しめるか」を軸に据えた月1回の研修です。外部から専門家を招き、形式や理論ではなく、授業中のグループに1人ついて観察していただき、教員の問いかけが生徒にどう響いているかを見つめるといった、超実践的・行動観察型の研修を重ねていかれました。
こうした地道な積み重ねによって、気づけば先生たちがいろんなことに前向きに取り組むようになっていたそうです。
生徒が楽しいと感じ、関心を持てる授業を作るために、職員室も変えていく。
「生徒が楽しいと感じ、関心を持てる授業が大切」という信念のもと、授業アンケートも「楽しかったか?」「興味・関心が湧いたか?」の2択形式に変更し、そこから授業づくりを再構築していったそうです。
結果として、研修も進化、教員の意識も変化し、校内に「ICTは不可欠」というサイクルが根づいてきたそうです。
また、熊井先生自身は職員室で「見えないように仕事をする」のではなく、“困っている人を見つけて声をかける”スタイルを徹底されているそうです。
さらに、「今の授業めっちゃ良かった!」とポジティブなことは大きな声で伝えるようにしておられるそうです。
「やらない人も実は聞いている。“光と影”があるなら、影に光を当てるのが自分の役割」そんな想いを込めて、日常の空気づくりからチーム・職員室を動かしていくことが大切だとお話しいただけました。
トークセッション:学校を変えるには?
それぞれの学校の実践をお話しいただいたあと、先生方がお互いに質問していただき、学校を変えていく方法についてお話しを深めていきました。
Q 企画を思いつくタイミングと行動の仕方は?
学校内外でさまざまな企画を計画・実行された先生方。それぞれの先生はどんなふうに企画を思いついて、実行していくのかお話しいただきました。
A.思いついたらすぐ行動!
青山先生と合田先生は、思いついたらすぐに行動されるそうです。
青山先生は、思いついた瞬間に企画書を作るそうです。「後回しにしない」ことを意識されているそうです。
合田先生も、その場で相談・動き出すようにされているそうです。思いついたら近くの同僚と対話し、アイデアをかたちにしていくそうです。
A.じっくり寝かして行動!
それに対して、熊井先生は、じっくりと考えてから行動に映るそうです。
企画を“寝かせて”考えるて、対象者の反応や優先順位を見ながら、時間をかけて判断するそうです。
Q2. 「反対してくる人」にどう対応していますか?
教育を大切にしている先生方だからこそ、ときには考えがぶつかることもあります。そんなときにどうされているのか、お話しいただきました。
A.「半分通れば十分」とわりきること。職員室外ともいい関係を。
青山先生は、「通る企画は半分で十分」と割り切って考えておられるそうです。
また、企画を通すために職員室外の、事務長や保健の先生と良い関係を築いておくことも大切だとお話いただきました。
A.「心」で話す。
熊井先生は、「“心で話す”こと。対立構えずに、「和」の気持ちで対話すること。」が大切だとお話しいただけました。
「教育を良くしたい」というスタンスは先生方は同じはずです。相手と同じテーブルに立ち、「いい教育をしたい」という共通の思いを確認することで状況が変わっていくとお話しいただけました。
A.「希望制」と「予約制」の使い分けで反発を避ける。
合田先生は、反発がおきそうな研修は、希望制にするとお話しいただけました。
また、普段からさまざまなお仕事を積極的に引き受けることで「文句を言われにくい」環境を作ることも大切だとお話しいただきました。
Q3. 周囲を巻き込むために意識していることは?
最後に、周囲の先生方を巻き込んでいくために一番大切にされていることをお話しいただきました。
A. 事務方との信頼と「まずは自分が動くこと」
青山先生は、企画の実現のためには、職員室内の先生方だけではなく、事務担当の先生方とも信頼関係を築くことが大切だとお話しされていました。
さらには、周囲の先生を巻き込んでいくためには、「まずは自分が有言実行」をし、信頼を得ることが大切だとお話しいただけました。
A.小さく初めて、うまくいったら広げる
合田先生は、「小さく始めて、うまくいったら広げる」ことで無理なく校内を巻き込んでいけるとお話しされていました。
また、こまめな情報発信で「聞いてない」を防ぐこと。感謝の気持ちを表すなど、日頃の小さな行動がが、協力を呼び込むことにつながるとお話しいただけました。
A.職員室であかるく、元気に過ごす
熊井先生は、「職員室で明るく、元気に過ごすこと」「一人で悩まず、他校の人ともつながって相談する」ことが大切だとお話しされていました。
明るく前向きな雰囲気作りが全ての原動力であり、ノウハウは後からついてきます。まずは明るい雰囲気づくりに自分自身が貢献することが大切だとお話しいただけました。
これから学校を変えたい先生方へ
魔法の方法なんてない。でも、それぞれの工夫と積み重ねが変化を生む。
今回お話しいただいた3名の先生方は、それぞれの立場や校種で日々試行錯誤を重ねながら、校内での実践の普及に取り組まれていました。
どの学校も、スタート地点は「うまくいかなかった」経験や、葛藤からのスタートだったという共通点があります。
印象的だったのは、先生方が皆、「頼られやすく、頼みやすい存在になること」、そして「失敗しても、またチャレンジしよう」という姿勢をとても大切にされていたことです。
一人ひとりが自分の足元から、仲間と力を合わせて小さく変化を生み出す。その積み重ねが、やがて学校全体を動かしていく。そんな、派手さはないけれど確かな一歩が、画面越しにも力強く伝わってきました。