(東京都立西高等学校)志賀直哉「城の崎にて」【実践事例】
東京都立西高等学校
岩田 真志教諭
小説の神様はなぜ小説の神様か 〜志賀直哉「城の崎にて」の視座から〜
本時で扱う小説「城の崎にて」は、作中に小動物の三つの死や苦しみが描かれており、学習者によって好悪が分かれる作品です。そこで、初読の感想と学習後の感想を比較し、作品世界の捉え方の変化に気づかせる目的で、初読の感想を好悪の程度に合わせた色カードで提示させました。赤をもっとも否定的な印象を示すカードに設定し、桃、黄、薄緑、深緑の順に肯定的な印象としました。
次に、小説の大まかな構造を分析した後、各プロットの構造を詳細に板書しながら精読していきました。
学習後、好悪に色分けしたカードに再度感想を書かせ、学習を経た印象の変化について振り返りました。
ロイロノート 導入のメリット
作品の印象(好悪の度合い)を色カードで示して共有することで、多様な見方があることを確認できました。
学習の前後に作品の感想を書かせることで、作品世界の捉え方の変化を明快に捉えることができました。また、そうした変化から、各自の読みが深まったことが実感できました。
実戦の目標
自身の作品世界の捉え方の変化から、「深く作品を読む」ことを経験する。
作品の構造の分析から、作品の背景にある西洋近代的な価値観を感じとることができる。
分析活動や精読を通し、「日本」の「近代」文学の完成形が立ち上がることを確認する。
実戦の場面
1.短編作品を読み、初読の感想を書く
小説の神様と称される志賀直哉の短編小説「城の崎にて」を読み、初読の感想を色カードに書かせる。その際、作品の印象(感想)を好悪の程度に合わせ、赤をもっとも否定的な印象を示す色として設定し、桃、黄、薄緑、深緑の順に肯定的な印象を表すこととした。
2.初読の感想を全体で共有する
色別に初読の感想を全体で共有する。「好き」「嫌い」「どちらでもない」がちょうど三分の一ずつくらいで分かれ、強烈な嫌悪感を持ったという意見がある一方、面白かった、文章が美しいとする意見も散見された。
3.「城の先にて」の作品構造(型)を考える
「城の崎にて」の物語の型について、以下のどの型に当てはまるのか考え、いずれか一つを選びカードを提出させる。
〈物語の型〉子供が立派な大人になっていく「成長型」、一般的な大人が子供心を取り戻す「退行型」、外から内に来て、再び外へ帰っていく「かぐや姫型」、内から外へ出かけていき、再び内に戻ってくる「浦島太郎型」。
4.場面ごとの構造を分析する
本文中に現れる「近代西洋的概念語(青マーカー)」と「前近代的東洋的自然的概念語(赤マーカー)に着目し、各場面ごとに板書する。
5.本文中の表現や場面から、小説の構造を確認する
作品全体としては「都会・現実」空間(生の世界、光の世界)から「自然・異界」空間(死の世界、闇の世界)へ向かい、戻ってくるという「浦島太郎型」の構造で進行されていることを確認する。
さらに、各プロットにおいても、この型が反復され、帰還型となっていることを確認する。
また、各プロットが「自然描写」→「主人公の内面」→「主人公の回想」の順に繰り返されている点にも留意させた。
6.学習後の感想を書く
初読の時と印象はどのように変わったのか、印象が変化するきっかけはどのような点にあったのか、どのような作品分析ができるのか、志賀直哉が小説の神様と称されている理由など、思いつくままに、読後の感想を書いた後、ロイロノート・スクールで提出し感想を全体で共有する。