ベクトル検索とは
ベクトル検索は、「データの意味を数値化して類似した情報を見つけるAI技術」です。データの意味を数値に置き換えることで、他のデータと比較できるようにしています。
ベクトルとは、方向を持つ数値の集まりです。データの意味を正確に表すために、ベクトルの成分(要素)の数は何百・何千にもなることがあります。
たくさんの次元を持つことで、ベクトルはデータ同士の意味の近さを数値で表すことができ、キーワードが違っても関連情報を検索できます。
キーワードの一致に頼らず、文脈を理解した柔軟な検索が可能で、AIのレコメンドや情報検索に活用されています。
ベクトル検索の根本:分布仮設とは
ベクトル検索の根本である分布仮説とは「単語の意味は単語の周りに現れるほかの単語との関係によって決まる」という考え方であり、言葉の研究でとても大切な事柄です。
分布仮説は、AIの技術である単語ベクトルのもとになっています。単語ベクトルは、たくさんの文章データから、それぞれの単語がどんな単語の周りに現れるかの統計的な情報を学習して作られます。
意味が似ている単語は、文章データの中で似たような単語と一緒に出てくることが多いので、ベクトル空間の中で近い場所に置かれます。
単語ベクトルの例
単語ベクトルを使うことで、単語どうしの意味の似ている度合いを数字で測ったり、意味合いをもとにした計算もできます。たとえば、「キング - 男性 + 女性 = クイーン」のような計算ができます。
この原理はベクトル検索に応用されていて、検索クエリと検索対象を両方ベクトルとして表し、意味的に近い情報をキーワードが完全に同じでなくても検索することができます。
ベクトル検索では、検索の言葉もベクトルにされ、データとの似ている度合いを計算することで、関係の深い情報が取り出されます。単語の意味が周りの単語によって作られるという分布仮説は、AIが言葉の意味を理解し、高度な情報処理をするためのもとになっているのです。
ベクトル検索は、ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)を使った質問応答システムや、会話をするAIにおいても、関係のある情報を効率よく取り出し、より正確な答えを作るために重要な役割を果たします。
たとえば、検索拡張生成(RAG)とよばれる技術では、ベクトル検索を使って外のデータベースから関係のある情報を取得し、大規模言語モデル(LLM)が答えを作るのに利用します。
ベクトル検索の仕組みを「リンゴ」「バナナ」「スマートフォン」で理解する
はじめに、ベクトル検索がどのように機能するのかをふんわりと見ていきましょう。ここでは、日常的な単語「リンゴ」「バナナ」「スマートフォン」を使って説明します。(あくまでも説明のためのイメージです。ベクトル検索のニュアンスを掴んでいただければと思います。)
下記4つの流れで解説します。
- テキストデータの準備
- 単語ベクトルの生成
- 類似度の計算
- 関連性の発見
1. テキストデータの準備
ベクトル検索では、まず大量のテキストデータを分析し、単語同士の関係性を学習します。例えば、テキストデータには以下のような文章が含まれているとします。
- 「リンゴは赤くて甘いフルーツで、健康に良い。」
- 「バナナは黄色くて柔らかく、朝ごはんにもピッタリの果物だ。」
- 「スマートフォンは今や生活に欠かせないデバイスだ。」
- 「リンゴやバナナはビタミンが豊富で、体にいい食べ物だ。」
- 「スマートフォンを使って、スーパーの果物売り場のセール情報をチェックする。」
- 「最近のスマートフォンには、食べたものを記録する健康管理アプリが搭載されている。」
このように、それぞれの単語がどんな文脈で使われるかを記録します。
2. 単語ベクトルの生成
次に、テキストデータをもとに単語ベクトルを作成します。単語の意味を数値ベクトルとして表し、単語同士の関係性を数学的に扱えるようにします。
例えば、「甘い」「フルーツ」「健康」「食べる」「デバイス」「便利」といった特徴を数値化し、以下のようなベクトルを作成します。
単語 |
甘い |
フルーツ |
健康 |
食べる |
デバイス |
便利 |
リンゴ |
80 |
100 |
60 |
75 |
5 |
10 |
バナナ |
85 |
98 |
55 |
80 |
3 |
8 |
スマートフォン |
0 |
0 |
20 |
5 |
100 |
95 |
このデータを見ると、リンゴとバナナは「甘い」「フルーツ」「食べる」といった特徴が共通しているのに対し、スマートフォンはまったく異なる特徴を持つことがわかります。
3. 類似度の計算
単語ベクトルを比較することで、単語同士の類似度を計算できます。よく使われるのがコサイン類似度という指標で、ベクトルの向きがどれくらい似ているかを測ります。
例えば、次のような類似度が得られたとします。
- リンゴ vs バナナ → 類似度 0.95(非常に近い)
- リンゴ vs スマートフォン → 類似度 0.10(ほぼ関係なし)
- バナナ vs スマートフォン → 類似度 0.12(やはり関係なし)
この結果から、リンゴとバナナは意味的に近く、スマートフォンとはまったく異なる単語であることが数値的に表現できます。
4.関連性の発見
単語ベクトルを使うことで、一見関係なさそうな単語のつながりを見つけることも可能です。
単語 |
甘い |
フルーツ |
健康 |
食べる |
デバイス |
便利 |
リンゴ |
80 |
100 |
60 |
75 |
5 |
10 |
バナナ |
85 |
98 |
55 |
80 |
3 |
8 |
スマートフォン |
0 |
0 |
20 |
5 |
100 |
95 |
例えば、スマートフォンは「健康」という単語とはある程度関係があります。
これは、健康管理アプリを使って食事を記録したり、スーパーのセール情報を検索したりするという文脈があるためです。
そのため、「健康に関連するもの」を検索すると、リンゴやバナナに加えてスマートフォンも検索結果に出てくることがあります。
このように、ベクトル検索を使うことで、単語の意味的なつながりを柔軟に捉えることができます。
この仕組みは、ユーザーの意図に沿った提案にも応用できます。
- 検索エンジン
「甘いフルーツ」と検索すると、リンゴやバナナが上位に表示される。 - レコメンドシステム
「リンゴが好きな人には、バナナもオススメ」といった関連アイテムの提案ができる。 - 健康アプリ
「バナナを食べた」と入力すると、スマートフォンが「他の健康に良い食品」としてリンゴを提案する。
ベクトル検索を使うと、単語の意味的な関係を数値化し、類似する情報を効率的に見つけられます。
「リンゴとバナナは似ているが、スマートフォンは違う」という直感的な関係を、数学的なベクトルで表現し、検索やレコメンドに活用する仕組みがベクトル検索の特徴です。
ベクトル検索とキーワード検索との違い2つ
検索には、これまで解説してきたベクトル検索のほかに、キーワード検索という方法があります。ここからは、キーワード検索とベクトル検索の違いを見ていきましょう。
キーワード検索はワードが一致するかで、ベクトル検索は意味の近さで探す
キーワードが一致するかで探すのがキーワード検索、意味が近いかで探すのがベクトル検索です。
キーワード検索は、ユーザーが入力したキーワードと、探したいテキストの中に含まれる文字が一致するかどうかで検索します。たとえば、「猫」と検索したら、文章の中に「猫」という言葉が入っているものが表示されます。
一方、ベクトル検索は、キーワードではなく、言葉の意味合いで検索します。検索クエリと検索対象のテキストを数値のベクトルに変換し、意味が近いベクトルを持つものを探します。そのため、「小型犬」と検索しても「チワワ」に関する情報が出てくる可能性が高いです。
ベクトル検索は長い文章でも検索できる
ベクトル検索は、長い文や文章全体をまとめて数値のベクトルに変換できます。キーワード検索では、文章が長くなると、ユーザーが入力したキーワードが一部しか含まれていない場合、なかなか目的の情報にたどり着けません。
一方、ベクトル検索は文章全体の意味合いを捉えて検索するため、キーワードが完全に一致していなくても、内容が似ている文章を見つけ出せます。
たとえば、「最近話題の環境に優しい車の情報を集めたい」という長い文で検索しても、キーワード検索では「環境」「優しい」「車」などの単語が含まれるものしか見つからないかもしれませんが、ベクトル検索なら、文章全体の意味を推測し、関連する情報を探し出せるのです。
ベクトル検索の活用事例
ユーザーの意図を汲み取ってくれる「ベクトル検索」。実際にどんな使われ方をしているのか見ていきます。
FAQシステムでの活用
FAQシステムにベクトル検索を導入すると、質問のキーワードだけでなく、意図や文脈をAIが解析して適切な回答を導き出します。
例えば、「パスワードを忘れてしまった」という質問に対し、「パスワード再設定の方法」といった適切なFAQを表示できます。
ユーザーは何度も検索を繰り返す手間なく解決策を見つけられ、自己解決率や満足度がアップします。社内での問い合わせ対応もグッと削減できそうですね。
検索型AI-FAQシステム「Helpfeel」は、ベクトル検索を活用した独自の特許技術「意図予測検索2」「意図予測検索3」を提供しています。検索意図を汲み取り、ユーザーがもっとも求めていたページを表示させることができます。
ECサイトでの活用
ECサイトでは、画像検索とベクトル検索を組み合わせることで、ユーザーが求める商品に近いものを簡単に見つけることができます。
例えば、ある商品の画像をアップロードすると、見た目が似た商品や意味的に関連のある商品が検索結果に表示されます。
言葉では表現しきれない「見た目の類似性」を画像を通してベクトル化することで、直感的な商品検索ができます。
ベクトル検索導入のメリット
ベクトル検索を導入するメリットは、大きく3つに分けられます。
検索精度の向上
ベクトル検索は、データの意味をAIが解析し、検索クエリに依存しない検索を可能にします。
検索クエリが曖昧な場合や専門用語が含まれる場合でも、適切な情報を抽出できます。スペルミスや表記の揺れにも対応し、検索の精度を向上させます。
業務効率化
FAQシステムの検索精度向上により、自己解決するユーザーが増えます。自己解決するユーザーが増えれば、問い合わせ対応業務の負担が軽減され、担当者はより複雑な業務に集中できます。
ユーザーは問題をすばやく解決できるため、顧客満足度も向上します。
多言語対応
ベクトル検索は、多言語データで訓練することで、異なる言語間でも関連情報を見つけられます。
グローバルビジネスを展開する企業は、多言語対応をスムーズに行うことができます。
ストレスフリーな検索体験は「ベクトル検索」で叶えられる
データの意味を数値化し、比較することで似た意味の情報を見つけることができるベクトル検索。
従来の検索方法であるキーワード検索とは異なり、ユーザーの意図に沿った検索結果を返すことで、顧客満足度や自己解決率のアップに期待ができる技術です。
自社FAQの検索性改善や社内問合せの業務効率化をお考えの方は、ベクトル検索の導入を視野に入れておくと、選択の幅が広がりそうです。
ベクトル検索の技術を取り入れたAI-FAQシステムHelpfeel
検索型AI-FAQシステム「Helpfeel」は、ベクトル検索を活用した独自の特許技術の活用で、飛躍的にFAQの検索性能を向上しています。その結果、FAQ利用者が正しい回答に辿り着く件数が増え、自己解決に繋がることで、個別の問い合わせ数削減が実現しています。
実際の導入企業では64%もの問い合わせ数の削減に成功した実績も出ています。検索意図を汲み取り、ユーザーがもっとも求めていたページを表示させることができます。
FAQページはあるが問い合わせ数が減らない、活用がうまくいっていないという場合はAI-FAQシステム「Helpfeel」の導入をご検討ください。