山形県を地盤とする地方銀行の株式会社きらやか銀行は、ネット口座開設の対象者を全国に拡大したのに併せて、2023年8月にHelpfeelを導入。不明点に対する回答が見つけやすくなったFAQで顧客の自己解決を促し、夜間・休日を含めた問い合わせ対応を強化した結果、ネット口座契約が増加を続ける中にあっても電話問い合わせの減少を実現しました。
キャッシュレス化・デジタル化の進行に伴い、金融機関に対するニーズと、それに応えるサービス内容が変わりつつある中、Helpfeelはオンラインの情報提供を担う新たなチャネルとして期待されているといいます。その導入経緯や、得られた効果、今後の展望を、同行デジタル営業部の熊澤 達也部長、戸村 陽様(DX推進室 室長)、髙橋 亮様(デジタル戦略室 副長)、沼澤 千鶴様(DX推進室 代理)に伺いました。
ネット口座の全国展開スタートに併せ、オンライン手続きの利便性向上を目指す
―― はじめに、今回お集まりいただいた方々のご担当業務をご紹介ください。
熊澤様 2024年4月に新設された「デジタル営業部」の部長を務めています。Webを活用した広域からの顧客獲得、および銀行内外に関わる業務のデジタル化を独立した部として推進する体制になり、他部門にも積極的に働きかけながらDXに取り組んでいるところです。
戸村様 私は、従来経営企画部にあったDX推進室の責任者です。デジタル営業部の一部署として再編された後も、引き続きデジタル技術・ツールの検討と活用全般を担当しています。
髙橋様 私が所属するデジタル戦略室は2023年前身の広域リテール戦略部の時から、個人のお客さまをネット経由で全国から獲得する取り組みを続けています。私自身は「ネットきらやかさくらんぼ支店」の企画業務のほか、Helpfeel導入当時経営企画部DX推進室を兼任しており、引き続きHelpfeelの運用にも加わっています。
沼澤様 私は、当行と提携しているSBIグループに1年間出向してデジタル広告分析などを経験した後、DX推進室に2024年4月着任しました。現在は、対外的なサービスと行内業務双方のデジタル化に取り組んでいます。
―― Helpfeelの導入に至った背景や、導入前の課題について伺えますか。
熊澤様 近年の銀行業界では、事業環境の変化を受けて5年で2.7万人の行員が減るなど(※)働き手が減少傾向にあります。これは当行も同様で、直接人手を介さず預金を獲得するチャネルの必要性を鑑み、2008年からネット支店を運営し、山形県内にお住まいの方向けの定期預金を扱ってきました。場所や時間に制約されないネットの利点をさらに生かそうと2023年8月に実施したのが、「ネットきらやかさくらんぼ支店」の全面リニューアルです。
※出典:全国銀行協会「全国銀行財務諸表分析」
この刷新を機に、ネット口座は全国から開設を受け付けることとなり、オンラインで手続きが完結する手軽さや、ネット限定の高金利商品、24時間リアルタイムで残高確認できるネットバンキング機能などを、主にWeb広告起点でPRすることが決まりました。そのため従来と異なり、当行をご存じなかった方々とネット上で初めて接点を持つケースが増えると見込まれました。
ネット支店に限らず、お客さまに関わる情報は以前から、当行のWebサイトで公開してFAQのページも設けていました。もっとも、閲覧動向を把握しながら継続的に改善できる体制は整っておらず、一方で当行のコールセンターや各営業店には、お客さまからの電話問い合わせが毎月合計で2,400件前後寄せられていました。
こうした状況を踏まえ、ご自身の都合のいい時間にオンラインで手続きを完結させたいネット支店のお客さまが知りたい情報をすぐ確認できる仕組みを整えること、さらにそうした自己解決の仕組みを全てのお客さまの利便性向上にもつなげることを念頭に、デジタルツールの具体的な導入検討を始めました。
偽情報がなく人が回答の正確性を担保できるツールであることを重視
―― ネット支店ユーザーなどに向けた自己解決のツールとして、Helpfeelを選ばれた決め手は何でしたか。
戸村様 ツールの種類としてはチャットボットなども検討しましたが、既存の記事コンテンツを流用してすぐ使い始められる点や、昨今の生成AIブームのなかでも偽情報が紛れ込まず回答内容の正確さに人間が責任を持てる点から、FAQツールのHelpfeelを選択しました。中でもHelpfeelはユーザーインターフェースや操作感が優れており、また利用動向を踏まえた改善提案を毎月得られることから導入を決めました。
髙橋様 「届出印」「印鑑」「はんこ」のように同一のものが別の言葉で呼ばれる、あるいは「通帳」と「口座」のように本来意味の異なる言葉があいまいに混用されるケースが、銀行に寄せられる質問ではよくみられます。Helpfeelには、入力キーワードと一致しなくても関連しそうなトピックを提示できる「意図予測検索」の機能があるので、そうした場面でユーザーが求める回答を発見しやすいのではと期待しました。
熊澤様 当行に先立ち、同じグループ(じもとホールディングス傘下)の仙台銀行が既にHelpfeelを導入していたことも大きかったです。預金・ローンなどの問い合わせ対応に幅広く活用し、成果が挙がっている様子を直接聞いていたため、自信を持って導入できました。
―― Helpfeel導入から現在までの運用状況についてもお聞かせください。
沼澤様 Helpfeelでは、アクセス総数や検索が増えたキーワードといった実績に基づく的確な分析・提案が毎月得られます。翌月までにそれらを反映する改善を続けていますが、確かな根拠があるため関係部署との協議・調整もしやすいです。
髙橋様 Helpfeelを導入してから直近まで半年あまりの間は、ユーザーが実際に入力した検索キーワードに対し全く回答を提示できなかったケース(Nohit)への対策を集中的に続けてきました。現在のコンテンツは、数としては当初とほぼ同じ約200記事ですが、改善により削除と追加を重ね、全体的な内容はかなりブラッシュアップされています。
ネット口座の全国展開により契約数は増加するも、電話問い合わせは前年対比で減少
―― オンラインの情報提供を強化し、顧客体験向上を図るという導入目的との関係で、現在どのような効果が得られていますか。
熊澤様 ネット口座は全国展開の開始から2024年5月現在までに、契約数で約4,000件、預金額では100億円以上にまで増加しましたが、平日の日中限定のコールセンターに問い合わせが集中してお待たせするような事態には至っていません。ネット口座に関するご不明点の大半は、夜間・休日を含めていつでも利用可能なHelpfeelを通じて解決しているとみています。
また当行はHelpfeelをネット口座以外の問い合わせ対応にも利用中で、Webサイトのトップページ等にはFAQの操作画面がポップアップ表示できる「Element機能」を実装しています。
この結果、従来Web検索で問題解決に至らず、営業店・コールセンターの電話番号を見つけて問い合わせていたお客さまも、FAQで自己解決できるようになりつつあるとみています。その根拠としては、Helpfeel導入前後である2023年と24年の3月に当行全拠点で受けた電話問い合わせ件数合計を比較すると、ネット口座で契約数が増えた24年のほうがむしろ少なかったことが挙げられます。
髙橋様 普通預金口座をお持ちでインターネットバンキングもご利用中のお客さまに対する情報提供では、利用動向を踏まえた改善の成果が特に多く現れています。
例えば、セキュリティ対策であるワンタイムパスワード関連のFAQでは、これまで機能概要の説明を上位表示していましたが、検索履歴からは「機種変更時に再度行うワンタイムパスワードの利用登録」の情報が求められていると推定できました。コールセンター部門にも確認したところ「実際にそうした問い合わせが多い」との裏付けが得られたため、機種変更時の手順を優先してご案内するよう変更しました。このように、ユーザーの検索履歴から求められていることがわかるので、根拠ある改善がしやすいと感じています。
また、ネット支店のリニューアルオープン以降、問い合わせが多かった「推奨ブラウザ」に関する回答を準備し、コンテンツの上部に表示する設定にしたところ閲覧数が大きく伸び、ニーズに応えられた実感が得られました。
沼澤様 情報を素早くアップデートできるメリットが行内に浸透してきた結果、Helpfeelは、顧客体験向上という共通の目標に向けた連携を深める役割も果たしつつあります。
例えば「キャッシュカードの磁気不良」はHelpfeelでよく検索されていたトピックで、営業店にも問い合わせが多いことが分かっていました。当行でカードを所管するのは事務部事務課で、デジタル営業部の知見や判断だけでは記事追加ができなかったことから、最終的に事務課に事情を説明し、作成してもらった記事をFAQとして新たに掲載しました。
事務課の協力のもと作成されたFAQ
反対に私たちが他部署の依頼を受け、新たな内容をFAQに掲載する例も出てきています。直近でも「当行Webサイトに明確な記載がなく、お客さまにとって分かりにくい項目が見つかった」との相談があり、サイト更新に先立ってFAQの回答として即時反映させる対応を行ったところです。
ネット完結型サービスへの移行がトレンド。オンライン上でスピーディかつ統一的な対応を
―― 導入されたHelpfeelに対する、ここまでの評価をお聞かせください。
熊澤様 さきほどの例にもあった通り、Webサイトの更新であれば申請後2、3日かかるところ、Helpfeelはサポート担当者のレスポンスが迅速なこともあり、大体いつでも、ほぼ決めたその場で内容を更新できます。お客さまに向けた最新情報や改善・修正をただちに反映できる点を、とても高く評価しています。
髙橋様 コンテンツを一通り作成した後、時期・状況に応じた見せ方の“さじ加減”が効くのもありがたい点です。
Helpfeelでは、ある検索ワードでヒットする複数記事のうち、特定のものを選んで上位表示させることができます。そのため、事前にさまざまなシーンを想定したコンテンツを揃えておけば、それら各トピックに関心が集まる期間に限り、特別目立つような扱いをすることも可能です。当行では「住宅ローン控除に関する残高証明書を郵送する10月」「新生活シーズンを前にした諸手続が増える年度末」などの年間スケジュールをHelpfeel側と共有しており、シーズンごとに最適なご案内を目指しています。
きらやか銀行 本店の外観
―― 最後に、Helpfeelの今後の活用についても展望をお聞かせください。
戸村様 「銀行ATMを使わないので通帳は不要」「決済はオンラインかQRなのでキャッシュカードも使わない」というお客さまが若い年代を中心に増えており、長期的には当行も、ネット完結型サービスへの移行が求められています。ただ足下では営業店や電話窓口といった従来からのチャネルが、依然重要な役割を果たしていることも事実です。
したがって私たちは当面、ネット専用チャネルを拡充する取り組みと並行して、既存のどの接点からでも素早く・統一的な対応ができるような行内体制づくりを進めることとなります。こうした過渡期の中でもお客さまを迷わせないご案内が実現できるよう、オンラインでスムーズに情報を提供できるHelpfeelをうまく活用していけたらと思います。
沼澤様 お客さま視点で有用な回答をいっそう充実させられるよう、引き続き他部門と緊密に連携しながらHelpfeelを運用していくつもりです。
髙橋様 閲覧数の割合をベースにすると、いま当行のHelpfeelで最もニーズがあるのは、ネットバンキング関連の情報です。そこで、この分野の回答をさらに充実させるとともに、銀行Webサイト内の効果的なポイントからFAQに誘導するElementを増やすなど、よりスムーズな自己解決に向けた導線も整えたいと思います。
熊澤様 先頃開かれた当行内のアイデアコンテストでは、従業員から「内部の業務マニュアルが検索しづらく、ナレッジの共有に時間がかかっている」との問題提起がありました。
目下当行では、拠点間の情報共有を強化する専用端末やネットワークといった設備面の整備を進めています。情報を素早く探し出すためのソフト面では、社内向けFAQとしてもHelpfeelを活用する他社の例を参考に、ベストの方法を見つけられたらと思います。