2023年7月、株式会社HelpfeelはHDI-Japanとセミナーを開催した。HDIはITサポートサービスにおける、世界最大のメンバーシップ団体だ。1989年に米国で設立され、世界初の国際認定資格制度を築いている。HDI-Japanは日本国内のサポートサービス業界の要請に応えて、2001年に設立された。
2020年からのコロナショックを経て、カスタマーサポートの現場にも変化の兆しが現れている。顧客体験の充実をより重視した事業戦略が注目を集める中、HDI-Japanが提供する「HDI五つ星認証プログラム」において最高評価である「HDI 五つ星認証」を4回連続取得している企業がある。それが、株式会社ZOZOだ。
セミナーでは株式会社ZOZO ホスピタリティ本部 CS企画部ディレクターの花村和明氏をお迎えし、インタビューセッションを行った。ZOZOはメールやチャットでのテキストコミュニケーションに特化したカスタマーサポートを行う企業として、アパレル業界初の最高評価「五つ星認証」を取得している。
インタビュワーは株式会社Helpfeelマーケティングマネージャーの落合純平。最適なデジタル顧客体験の実現に向けた課題や、今後の展望についても詳しく伺った。
■登壇者
GUEST:株式会社ZOZO ホスピタリティ本部 CS企画部 ディレクター 花村 和明 氏
INTERVIEWER:株式会社Helpfeel マーケティングマネージャー 落合 純平
アフターコロナ時代を迎え、顧客対応を刷新
ファッションECサイト「ZOZOTOWN」の運営を手がけている株式会社ZOZO。「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」を企業理念に掲げ、1500以上のショップ、8500以上のブランド(※2022年12月末時点)を扱っており、アパレル・コスメ・アクセサリー商品などを展開している。花村氏が所属しているホスピタリティ本部 CS企画部は間接部門として、ナレッジ管理や問い合わせ分析、業務最適化、自動化などに取り組んでいる。
2020年以降、コロナショックによって消費者の行動が大きく変わった。対面でのコミュニケーションの機会が減り、生産活動・物流が停滞する一方で、オンライン消費への需要が高まった。それに伴い、カスタマーサポート体制のあり方を見直す企業も増えてきている。
ZOZOでは、2020年の段階で、クラスター感染による自社コールセンター運営の停止リスクを考慮し、一時的に電話対応を取りやめていた。その後、2021年3月に「電話対応の原則廃止」に踏み切ったという。
電話対応の廃止により、エスカレーション件数が65%減少
電話対応を原則廃止し、チャットボットとメールによる「テキストコミュニケーション」での対応に絞ったZOZO。その結果、エスカレーションにつながるクレーム件数が65%減少したという。
「電話対応をやめてから、エスカレーションにつながるクレーム件数が65%削減できました。弊社は対応するオペレーターをすべて自社雇用していますが、離職率も改善しています。電話対応をしていたオペレーターはそのままメール対応を担当。そのためお客様からの評判や売上数字にも特に影響はなかったです。弊社では入社後の長期研修ですべての対応スキルを身につけているので、移行もスムーズでした」(花村氏)
電話からテキストベースのコミュニケーションに変わることで、落ち着いた状況でお客様対応ができるようになった。それでも「電話をしてほしい」とのニーズが挙がってきた際には、個別に対応するようにしている。マニュアルにない対応も、お客様のためになることであれば上長に相談した上でオーダーメイドで実現できるのだ。
ZOZOの顧客は電話によるコミュニケーションを優先しない方が多い。コロナ前の2017年の問い合わせ内容を振り返ってみると、電話を使った問い合わせは全体の40%を占めていた。2020年になると、20%へとさらに減少。問い合わせチャネルは、時代の流れとともに徐々に電話からチャット・メールへと置き換わっていたことも判明した。
自己解決型のカスタマーサポートの実現に向けてHelpfeelを導入
電話対応を廃止したZOZOが次に目指しているのが、お客様による自己解決型のカスタマーサポートの実現だ。2019年から導入していたチャットボット、さらにはFAQも活用しながら改善活動を継続している。
年々業績が伸びていけば、オペレーターにかかる人件費も膨大になっていく。なるべく早い段階で問い合わせに対するユーザーの自己解決率を高めていきたいと考え、チャットボットとFAQ導入を決めた。当初はHelpfeelではなく、自社でFAQサイトを作成し、運用。お客様から寄せられる幅広いニーズに応えられるよう、自己解決できるソリューションを積極的に活用していくことになった。しかし、次第にFAQサイトの運用に課題を感じ始めたそうだ。
「FAQの内容を編集したいと思っても、実際の作業を担当している社員は技術部門にいます。そのためまず技術部門に相談して依頼するので、どうしても完了までに時間がかかってしまうんです。さらに一つひとつのFAQに対するアクセス数などが分析できない、キーワードが完全一致しないとワード検索に引っかかってこないなど、致命的な課題がありました」(花村氏)
そうした課題を解決できる製品としてHelpfeelを選定し、導入した。決め手となったのは、3つの柱だ。社内で既に使用しているシステムとの連携実績、大量アクセスへの耐性、さらに導入企業からの評判だ。グループ会社でHelpfeelを活用していた企業があったため、好印象を抱いていたという。
「実際に使ってみて一番良かった点は、サポート体制です。月に一度の定例会で、カスタマーサポート担当の方が毎回提案をしてくださるんですよね。例えば『最近検索数が増えてきたキーワードに関する記事がないので、新たに用意しましょう』『再検索率のデータから考えると、最初から探したかった記事はこういうテーマでは?』などのサポートがあり、心強いです。毎月提出いただくレポートもグラフィカルで分かりやすいですね」(花村氏)
毎月定例会で提出されるレポートを元に、追加の記事作成や運用の見直しを進めた結果、自己解決比率が向上してきている。検索によって表示されなかった記事は以前より少なくなり、ここ1年で問い合わせ率もさらに下がってきた。組織改編もあり、オペレーターは以前よりも少ない人数で担当しているが、それでも品質を落とさずに、自己解決につながる顧客体験を支えている。
最適なデジタル顧客体験の先にある、未来の形
ChatGPTの出現により、顧客対応につながるソリューション自体も日々変化を続けている。最後に、これからの顧客体験を見据え、どのような取り組みを進めているのかについて花村氏が語った。
「今後はすべてのユーザーがまずWebを使って解決できるかを考える。Web上で解決できない方だけが問い合わせに至る。そんな世界を思い描いています。弊社の基幹システムとも連携させ、お客様のライフスタイルに合わせた自己解決が、その場でできる。そんな開発を進めていきたいです」(花村氏)
DXによる自己解決率を高めていった先には、人間にしかできない相談への対応に集中できるようになっていくと花村氏は述べた。ファッションやコーディネートに関するアドバイスなど、人間らしいセンスが求められる相談は、いつの時代も消えないだろう。「人」による対話が生むコミュニケーションは、よりクリエイティブな形へと変わっていくのかもしれない。